■阪口涯子の俳句

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 句集『雲づくり』 解説 金子兜太


写真 「阪口涯子・79歳」 『航海日誌・黒の回想』扉の写真です。

 
        『 雲づくり 』  解説 


       灰白のコスモポリタン    金子 兜太


 涯子さんと一緒に那覇を訪れたとき、「 ナハブランカ 」 とときどき呟くのを聞いた。
カサブランカをもじっての那覇ブランカらしく、ホテルの窓から見わたす低い丘陵状の街は、
若夏(うりずん)のひかりのなかに灰白に熱く起伏していた。

私も<那覇白し>とか<白照街>などとメモしたほどだったが、白いというよりは灰白。
涯子さんはすぐにモロッコ北岸のカサブランカをおもいだしていたのだ。

「だからナハブランカさ。この感じが好きなんですよ」ー微笑を含んだ眼鏡の顔に、
いつもより稚気ありと見たのは私の僻目か。

 ホテルのロビーに同行の十名ほどが集って、沖縄でできた句を色紙や半折に好き勝手に
書いていた。

涯子さんはさっそく、「朱夏すすり哭く五月六月ナハブランカ」
             「午前三時渇く咽喉ナハブランカ」

などとつくって、まるでとっくにこの呼び名が確定しているような気軽さだった。
相変らず自由だ、と私はおもう。

涯子さんはすこし震えのきている手に力を入れて、それらの句を揮毫している。

熱く灰白の起伏がデイゴの朱花をいたずらに鮮明なものにはしない。
この起伏のなかにいると夜明けから咽喉が渇く。

<沖縄の痛み>がじわじわと滲んできて、ナハブランカは涯子さんの手のように震えていた。



 私はそれを見ていたのだが、そのうちに、この人に「航海日記」という名随想があったことを
おもいだした。

病院長だった涯子さんは、還暦を越えてその仕事を止めると、さっそく船医として
貨物船に乗り組み、数年を世界の海の上で過ごした。

海の好きなこの人は人生のいつのときかを海洋の潮のきらめきに身をただよわせて
過したいと願っていたのではないかとおもう。

日記は、そのせいか、のびのびと海を航く日日の自己内面を綴り、
あちこちの港との出会いを語っていた。

カサブランカもそのときのお気に入りの一つ。いや、一番のお気に入りだったにちがいない。

カサブランカ、ナハブランカ、と口遊むうちに、私はこれが涯子さん自身の
<熱く灰白な>心象と十分に重っていることを知った。

気付くと、向こうには家木松郎さんがいるではないか。
松郎さんも、直立感のあるしゃんとした姿勢で涯子さんの筆の動きを眺めている様子だった。

私は、この松郎さんと涯子さんを並べて考えることが多いのだが、お二人とも医師で、八十代、
松郎さんのほうがすこし年長である。

松郎さんは北陸の立山町に住み、涯子さんは西海の佐世保に暮す。
御両所とも句のリズムのやわらかな展開が似ているし、欧風の香りを覚える句柄も似ている。
そして、それよりなにより、二人は根っからの自由人であり、正真の詩人なのだ。

しかし、松郎さんの映像は静かでうすい青をおびていて、どことなく気質的である。
この人の周囲には清澄な山気がながれていて、見ると立山連峰が背後に聳えていた。

青年期をそこで過ごしたスイスの峻嶺もその向こうに覗く。

それにくらべて、涯子さんは熱く灰白。才質的といってよい。

この人の前には、山ではなく海が、それも北の海の寒冷ではなく、西の海の睡(ねむ)たさ、
南海の碧のうねりが、白っぽい潮気のなかにひろがっている。

そして私は、お二人をコスモポリタンともおもっている。
松郎さんは<青>の、涯子さんは<灰白>の。





●nora追記 別に掲載中の【黒の回想・35】文中の「 同じ装釘で同時に出版され兄弟句集 」

このイメージにヒントを得てか、阪口涯子第3句集「雲づくり」1983刊は
      
家木松郎「家城」句集発行のあとすぐ、同じ装釘同じレイアウトで、70句149頁を出版しています。

家木松郎さんは富山・立山の外科医で、年齢も涯子さんと近く、この黒の回想の文章を読んでいて、はたと気が付きました次第です。

兜太さんの解説も、兄弟句集を踏まえて、家木さんのエピソードが多くなっています。
      

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  1. 2006/03/19(日) 09:05:52|
  2. ■ 『雲づくり』 阪口涯子第三句集
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